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過活動膀胱(トイレが我慢できない、尿が近い)

過活動膀胱とは

過活動膀胱(OAB)は、尿意が頻繁でかつ急に感じるようになり、自身で尿意のコントロールが難しい状態を指します。昼夜問わず、何度も突如排尿したいと感じることが多く、また尿失禁(急に尿がしたくなり [尿意切迫感]、我慢できずに漏れてしまう)を経験することもあります。日本での疫学調査では、過活動膀胱は40歳以上の男女の14.1%、すなわち約1040万人の方が過活動膀胱に罹患していることが示されています。また、その約半数が尿失禁(切迫性尿失禁)を伴うことも示されています。

過活動膀胱を患っている方は、頻回の尿意や失禁により恥ずかしさを感じたり、誰にも相談できずに孤立したり、仕事や社会生活を制限せざるを得ないことがあります。幸い過活動膀胱の症状は、食事や飲水の調整や時刻や間隔を意識した排尿、骨盤底筋の体操による膀胱の支持などの複数の治療法を組み合わせることで管理することができる場合があります。更に、これらの治療が過活動膀胱の症状に十分な効果を示さない場合は、薬物療法や内視鏡の治療を含めた追加の治療が利用可能です。

過活動膀胱の症状

症状

過活動膀胱により、以下のような症状を自覚することがあります。

  • 突然に尿意を感じ、我慢することが難しい
  • 尿意を感じた直後に尿が漏れてしまう(切迫性失禁)
  • 24時間に8回以上の排尿
  • 就寝後に2回以上起きて排尿する(夜間頻尿)

更に尿意を感じた際にトイレに間に合った場合においても、予期せぬ頻尿や夜間の排尿は生活に多大な影響を与えることがあります。

医師に相談するタイミング

このような排尿に関する症状を打ち明けるのは簡単ではないかもしれませんが、あなたがこのような症状で悩んだり生活に支障をきたしている場合は、ぜひ医師に相談してください。泌尿器科専門医が十分な検査と評価を行うことで効果的な治療を提供できる可能性があります。

過活動膀胱の診断

過活動膀胱の評価・診断は、日本の過活動膀胱診療ガイドラインに従って、自覚症状の問診、病歴の取りまとめ、過活動膀胱症状スコアの評価などが重要です。さらに、排尿記録や生活の質に関する質問票、尿流動態検査なども必要に応じてに用いられます。問診や質問用紙を使って症状を把握し、尿検査や超音波検査、CTやMRI検査などで感染症(膀胱炎など)、尿路結石、前立腺肥大症、膀胱がんや前立腺がんなどの特定の疾患を除外した上で、過活動膀胱と診断して治療を開始します。

過活動膀胱の原因

健康な膀胱の仕組み

腎臓で作られた尿は、尿管と呼ばれる身体の奥深くに位置する臓器を通って膀胱に流れ込みます。尿を排出するとき、尿は尿道と呼ばれる管を通り膀胱から体外に排出されます。その際、水道の蛇口のような役割を担う尿道の筋肉である括約筋が開いて、尿が体外に排出されます。
女性では、尿道の開口部は膣のすぐ上にあります。男性では、尿道の開口部は陰茎の先端にあります。膀胱が尿で満たされると、脳に送られる神経信号が最終的に尿意を引き起こして排尿に至ります。尿を排出するとき、神経から送られる信号は骨盤底筋と尿道の筋肉(尿括約筋)のリラックスさせることで出口を開き。膀胱の筋肉が収縮してポンプのような役割を果たすことで尿を押し出します。

不随意な膀胱の収縮

一方、過活動膀胱の患者の場合、膀胱内の尿の量が少ない状態においても、膀胱の筋肉が意思とは関係なく収縮することがあります。これらは不随意収縮と呼ばれ、急激な尿意を生み出します。

過活動膀胱の症状や発症に関係するものとして以下の病気が知られています:

  • 神経障害、脳卒中や多発性硬化症
  • 糖尿病
  • 過活動膀胱の症状に似た症状を引き起こす尿路感染症
  • 女性の更年期のホルモン変化
  • 膀胱腫瘍や膀胱結石
  • 前立腺肥大、便秘、尿道狭窄症など、尿が膀胱から排出されるのを妨げる要因

更に過活動膀胱の症状は、以下とも関連している可能性があります:

  • 利尿薬や、たくさんの水分と一緒に摂取する必要がある薬
  • カフェインやアルコールの摂取過多
  • 加齢による認知機能の低下で、脳から受け取る信号を膀胱が理解するのが難しくなる
  • 歩行困難で、すぐにトイレに行けないため、尿意を感じてからトイレに間に合わない
  • 排尿しきれない尿が膀胱内に溜まって膀胱のスペースを圧迫することで過活動膀胱の症状が現れる

残念ながら過活動膀胱の特定の原因は不明なこともあります。

過活動膀胱の治療

生活療法

過剰な水分摂取やカフェイン摂取を抑えることによって、頻尿・切迫性尿失禁の改善が期待できます。また、早めにトイレに行く、外出時にトイレの位置を確認しておく、などのトイレ習慣の変更により、切迫性尿失禁を防止しやすくなります。高齢者では、トイレ環境の整備や着衣の工夫など、日常生活で工夫できることもあります。また、喫煙は動物実験レベルで膀胱収縮を引き起こすと報告されており、喫煙者は尿意切迫感や尿失禁が多いとの報告もあります。喫煙自体が他の疾患のリスクにもなるため、禁煙に努められる方が無難と思います。

膀胱訓練

膀胱訓練は少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を増加させる訓練法です。具体的な方法としては、排尿計画を立て、短時間から始めて徐々に15~60分単位で排尿間隔を延長し、最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。また肥満により身体に溜まった脂肪組織が膀胱を圧迫して過活動膀胱になる場合があります。まずは肥満の方は体重減少に心掛けましょう。

骨盤底筋体操

骨盤底筋は、骨盤の底部に位置する筋肉で、骨盤内臓器を支えたり、排尿や排便をコントロールする役割があります。尿漏れの改善には、「骨盤底筋体操」という骨盤底筋を強化する運動が効果的です。
骨盤底筋体操は、筋肉を鍛えることで尿道括約筋の機能を回復させる目的の運動です。毎日行うことで、尿道や肛門が引き締まり、徐々に尿漏れの頻度が減ることが期待できます。この体操を続けることで、自然に尿道括約筋を閉める能力が向上し、咳やくしゃみをしたときにも無意識に筋肉を使えるようになります。有効率は60%から80%という報告があります。

薬物療法

抗コリン薬

膀胱の収縮は、「アセチルコリン」という物質が神経の末端から放出されることで制御されます。抗コリン薬は、アセチルコリンの作用を弱めることで、膀胱の過剰な収縮を抑制します。服用を開始してから1ヶ月ほどで効果が現れるため、すぐに効果が感じられない場合でも、継続して服用することが重要です。抗コリン薬の副作用には、口の渇きや便秘などがあることが知られています。しかし、最近では1日1回の服用で効果が高く、副作用が少ない錠剤も開発されており、患者さんにとってより使いやすい選択肢が増えています。

Β3受容体遮断薬

アドレナリンβ3受容体作動薬は、膀胱の筋肉に存在するアドレナリンβ3受容体を刺激し、膀胱を弛緩させることで、尿を溜める機能を改善します。抗コリン薬に比べて、口の渇きや便秘といった副作用が起こりにくいとされています。このため、患者さんがより快適に治療を受けられる可能性があります。

電気刺激治療・磁気刺激治療

電気刺激療法(干渉低周波療法)や磁気刺激療法は、電気や磁力を使って骨盤底の筋肉や神経を刺激する治療法です。腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対して効果があることが報告されており、これらの症状を改善するための選択肢として用いられます。

ボツリヌス毒素の膀胱内注入療法

ボツリヌス療法は、過活動膀胱や切迫性尿失禁の治療に用いられる方法で、通常の薬物療法で効果が得られなかったり、副作用で治療が続けられない患者に適用されます。膀胱の筋肉を緩める薬(A型ボツリヌストキシン)を内視鏡により膀胱壁に直接注射することで、膀胱の過剰な収縮を抑制し、切迫性尿失禁を改善します。ボツリヌス療法は、アメリカやヨーロッパなどの国々で広く行われており、日本でも2020年4月から健康保険が適用されるようになりました。治療効果は患者によって異なりますが、日本での臨床試験では、1日の尿失禁回数が平均で3.6回減少し、27%の患者で完全に消失しました。また、排尿回数も平均で1.7回減少しました(施術6週間後)。治療効果は、施術後2〜3日で現れ、6ヶ月から10ヶ月の間持続します。効果が徐々に減少すると、再投与が必要となるため、対症療法として用いられます。再投与の時期については、医師と相談することが重要です。

過活動膀胱のリスク要因

年齢が上がるにつれて、過活動膀胱の発症リスクが高まることは確かです。また、前立腺肥大や糖尿病など、膀胱機能に影響を与える他の疾患や障害も増えます。

認知機能が低下している人々(例えば、脳卒中やアルツハイマー病の患者)は、過活動膀胱を発症しやすいことが知られています。失禁が起こる場合、水分摂取のスケジュールやタイミングを考慮した排尿、尿もれパッド、薬物による排便管理などの方法で対処が可能です。過活動膀胱を持つ人の中には、排便も適切に管理できない人もいます。このような問題がある場合は、医師に相談することが重要です。医師は、症状に応じて適切な治療法を提案し、生活の質を向上させる手助けをしてくれます。

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